2007年04月21日

1913年刊『時務一家言』における徳富蘇峰の回顧

CiNiiを「徳富蘇峰」で検索すると、三つ目に、梅津順一さん(聖学院大学政治経済学部)の論考「徳富蘇峰と『力の福音』---『将来之日本』から『時務一家言』へ」が表示される。全文が読めるので、印字して、通読してみた。
徳富蘇峰が、1913年12月刊行の『時務一家言』で過去を回想した枠組みに従い、『将来之日本』と『時務一家言』を対比的に読むと、この論文が示すような歴史イメージとなる。

海軍と政友会によって、桂太郎が政治的に失脚に追い込まれた直後に、1886年の上京以来歩んできた道を回顧すれば、日清戦争と三国干渉で前後に別つ、二期区分のパーソナルヒストリーとなる外ないであろう。
その際、蘇峰は、海軍(肝付兼行)と発言を共有し、薩派(松方正義)と行動を共にした1891年から1897年を自分の履歴として語るのを避けるため、三国干渉の衝撃を過大に叙述し、マンチェスター派を援用した若気の至りを強調した。
日清戦争以前の自分を低く位置づけ、日清戦争以後の自分を肯定的に描いた。しかし、実際には、米原謙氏のいわゆる「便宜主義」的戦略主義で一貫していただけである。

大正政変以後のこの時点では、まだ、山県有朋、寺内正毅との交流は続いている。海軍中心の軍備を唱え、台湾占領を提唱した時代について蘇峰が語るのは、昭和に入ってからである。

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1929年刊『台湾遊記』と1935年刊『公爵松方正義伝』において、松方正義の意見書起草を通じて、また、『国民之友』『国民新聞』の論調を通じて、台湾占領に関与したことを認めた。

しかし、この時代になっても、蘇峰は、自分をマハンに私淑した弟子筋であったと語ることはない。また、1886年刊『将来之日本』から1894年刊『大日本膨脹論』への主張の転換において決定的な影響を受けた海軍水路部長肝付兼行の名は、1935年刊『蘇峰自伝』にまったく一度も出てこない。

米国に対して19世紀末まで歴史を遡って、マハン、ロッジ、T・ルーズベルトを非難する以上、若い頃、同じ台本(マハン海上権力論)で自分も動いていたことを認めることはできなかったと推察される。

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もう一つの事情がある。肝付兼行は、日本海員掖済会、帝国水難救済会、帝国海事協会を実質的な海軍の外郭団体化することに、継続的に関わった人物である。海軍の一般社会に対する関係構築の担当者、海軍の広報担当として有能な働きをした。大日本教育会、帝国教育会の幹部にも長くとどまり、学校教育というチャンネルを経由して、海事と海軍に対する理解と支援を得ることに努力した。

日露戦後における海軍と政友会の接近は、この海軍の「拡大された外延部分」を支援することを通じてなされた。

第1次西園寺公望内閣の内務大臣となった原敬は、(1) 港湾調査会を通じて、港湾整備に関して海軍との関係を深めた、(2) 海事協会が日露戦争中に始めた義勇艦隊建設募金を支援した。同時に原は、大浦兼武が関わった大日本武徳会の募金活動に警察官が関わることを掣肘するため、警察官の諸公共団体の募金活動への関与をやめるよう訓令した。

『蘇峰自伝』によれば、蘇峰は、大浦が調達した資金で、第2次桂内閣当時から、「勉強館」という名の記事情報提供センターを設け、各地方新聞に対して社説に使える論説を送るなどの活動を行ったという。山県有朋、桂太郎、寺内正毅たちと付き合ううちに、かつて日清戦争当時、同じ側にいた海軍、しかも、外郭団体や世論の支持を獲得する試みが成功しつつある拡大された海軍と、政治の場で対峙することになった。

こうした条件が、日清戦争前後を回顧する『時務一家言』の叙述に反映している。


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1913年、尾崎行雄を旗頭に護憲運動が高まり、第三次桂内閣が総辞職する。民衆の力で内閣が倒れたのはこれが初めてのことで、大正政変と呼ばれる。
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